第5話 「うちの商品は買わなくても結構ですよ」の巻(後編)
堆肥化で発生する悪臭に苦情が来ており、解決が必要な施設。高温と強烈なアンモニア臭の中、必死に現場調査を進めます。
後編では、そこから導き出した解決策をどのようにご提案するかのお話です。
第5話 「うちの商品は買わなくても結構ですよ」の巻(後編)
現場の調査に入る前は、「堆肥化工程での通気不足などが原因ではないか」と考えていた。しかし実際に計測してみるとそんなことはなく通気量はむしろ十分すぎるくらいだった。
この施設では、原料の5倍以上もの副資材を加えており、それによって通気性がしっかり確保されていたのだ。
通気が確保できているので、ミライエの商品(高圧通気システム)は不要ということになる。でも他に何か、この施設の運営に役立つ打ち手はないだろうか?
そこで私は、通気ブロワの出力をむしろ弱める制御を試してみた。この施設のブロワは静圧(空気を吐き出す力)が高いお陰で通気性能は良いのだが、反面ブロワのモーターの消費電力がかなり大きいという特性があった。まずはブロワの出力を10%、20%と下げてみたが通気性に影響がみられず、最終的に出力を半分まで下げても問題がないことが分かった。
こうして採取した膨大なデータを取りまとめ、何ページもの報告書を作成した。
日を改めて説明の場を設定してもらい、再度客先の会議室を訪れた。前回と同じ、社長以下10名の方が並んでいる。そこで私は、通気ブロワの出力を落とすことのほか、施設の運転方法の変更などいくつかの提案を行い、これらを組み合わせれば処理量を落とすことなく年間で1千万円以上の利益が生み出せることを伝えた。
最後まで聞いていた先方の社長がこう尋ねてきた。「いろんな提案してくれて嬉しいけど、それでミライエさんからは何を買えばよいの?」
そこで私は答えた。「今は何も買ってもらわなくて結構です。まずは提案内容を実行に移して、利益を出してください。」
ということで、ビジネスとしてはいったん失注したのだが、この事業所は数年後には億単位の利益剰余金が積みあがるまでになり、その頃に再度連絡を頂いた。大型の設備導入のオファーだった。
私はすぐに現地に飛ぶと、現場の雰囲気がまるで変わっており、全員が自信をもって働いている様子に驚いた。
あのときの提案を実行に移し何がどう変わったのか、その後にどんな工夫を加えたのかなど細かく教えていただいた。受注の嬉しさはもちろんだが、こうして現場で働く人たちが変化したことの嬉しさもまた大きかった。
(第5話 後編 おわり)