第10話 社員と創ったミライエの価値観 (後編)
成長し続けられる企業には何があるんだろうか。その鍵は、古い仕組みを捨てつつも“自分たちは何者か”を語り続ける文化にあるのでは――そんな視点から、「理念」という「組織の遺伝子」について考えました。

企業を成長させる「理念という文化」
前回に続き、もう少し理念について書いてみたい。
仕事柄、大手企業の方と話をする機会がある。
そのときに印象的なのは、皆さんが当たり前のように
「うちの創業者はこんな思いで事業を始めた」
「わが社に伝わる価値観はこれだ」
と語る文化を持っていることだ。
創業100年を超える企業ですら、こうした会話を日常的に交わしている。
これは本当にすごいことであり、こうした考えが根付くかどうかが、大きな組織になれるかどうかの分かれ目なのではと感じている。
エントロピーと生命のしくみ
ずいぶん昔の話だが、生物学者・福岡伸一さんの『生物と無生物のあいだ』という本を読んで、強く印象に残った言葉がある。
「生命とはエントロピーと戦っている存在である」という一文だ。
エントロピーとは、簡単に言えば “形あるものが壊れていく力” のこと。
例えばコーヒーにミルクを垂らすと、ゆっくりと混ざって、やがて二つの区別がなくなる。
一度混ざったミルクとコーヒーは、どれだけ待っても自然には元通りに分離しない。
この「不可逆性」こそがエントロピーの正体である。
生命は、そのエントロピーに抗うために “壊れる前に捨てる” という仕組みを持っている。
人間の身体で言えば、髪や爪だけでなく、皮膚なら1か月、血液なら2か月、臓器も数か月で新しい細胞に入れ替わる。
骨ですら例外ではなく、だいたい1年もすれば人体のほとんどの細胞が入れ替わると言われている。
つまり、1年前の私と今の私は、細胞レベルでは別人だ。
しかし、だからといって1年後に私が大谷翔平のようになれるかといえば、絶対にそんなことはあり得ない。(なってみたいが 笑)
どんどん細胞を捨てて新しくしているのに別人にならないのは、生命には「遺伝子」があるからだ。
なので、どれだけ細胞が新しくなっても、島田義久は来年も、島田義久のままである。
組織に必要なのは「捨てる力」と「遺伝子(理念)」
この仕組みを知ったときに私は思った。
「会社組織も同じではないか」
会社には、旧態依然とした仕組みや考え方が、意味もなく残っていることがある。
こうしたものが溜まっていくと、組織はどんどん衰退していく。
捨てられないことで、エントロピーの増大に対抗できなくなっているのだ。
人間の病気で最も怖いものの一つが癌であるが、これは細胞が “捨てられなくなる(細胞が死ななくなる)” ことで起こる病気だ。
企業も壊れる前に「捨てる力」を持たなければならない。
では、どんどん何かを捨てていれば会社組織は安泰なのだろうかというと、もちろんそうではない。
そこに必要なのが会社にとっての遺伝子、つまり「経営理念」なのだと思う。
人間の遺伝子には「自分は誰か」ということが書かれている。
会社の理念には「わが社とは何ぞや」という遺伝子が詰まっている。
社会とどう関わり、何を約束するのか? それこそが企業の理念である。
理念とは、組織がエントロピーに抗うための「生命維持装置」のようなもの。
だからこそ、関わる人の共感を呼び、普遍的な価値観であることがとても大事なのだと思う。
(第10話 おわり)
