第7話 クサイ匂いはお金の匂い
「爽やかなお茶から、想像を超える異臭が…?」
お茶を原料とした堆肥化現場からのご相談。
「それなら匂いも穏やかだろう」と思いながら向かった先で、
島田は予想をはるかに超える臭気と出会いました。
爽やかなはずの現場で
この仕事をしていると、とにかく悪臭は避けて通れない。不思議なもので、むしろ臭いのない現場に行くと「なんだ、こんなものか」と物足りなさを感じることもあるくらいだ。大概にして、臭いのある現場ほど課題も多い。課題が多い現場ほど燃えるので、もう職業病のようなものである。
そんな仕事をしていても、忘れられないくらい臭い現場というものはある。今日はそんな現場の話をしてみよう。
ある日、お茶っ葉を堆肥化しているという現場からの相談を頂いた。なんでも、堆肥化が全然うまくいかず温度も上がらないので、一度現場を見てほしいとのことだった。訪問前は内心、「茶葉なら爽やかな感じの施設だろう、楽勝だな」と、高をくくっていた。
ところが新幹線とレンタカーを乗り継いで現場に行くと、他の堆肥化施設では嗅いだことのない異様な臭気がしていて思わず顔をしかめた。硫化系の臭気と酸系が混ざった何とも言えない匂い。「このひどい匂いはいったい何だろう」と思ったが、でもどこかで嗅いだことがある気がする。で、ふと思い出した。お墓参りで花を供えるとき、前に活けた花と水が腐っていてすごい匂いがするが、ちょうどあの匂いだ。この現場はまさにあの匂いを濃縮したような臭気が漂っていた。
慣れない匂いに辟易しながら、それでも現場に入ってデータを計測し作業をこなす。一通りの作業を終えるころには鼻も慣れ、採取したデータを基にお客様と打ち合わせしてその日のタスクは終わった。
新幹線に乗って帰路に就くと、麻痺していた嗅覚が少しずつ元に戻ってくる。その時初めて、自分の髪や服、靴にまでかなりの匂いがついていることに気づいた。すると前の方の席に座っている乗客が、この異様な臭いの元は何だろうとキョロキョロし出していることに気づく。もう一人、ハンカチで口元を押さえている客も出始めた。これはヤバイ。
「不審なものや行為にお気づきの場合は、乗務員または駅係員までお知らせください。」というアナウンスが、まるで自分に向けられたもののようで気が気でない。通報でもされたらエライ騒ぎになるぞと、本当に焦った。
そっと他の車両に移ると、グリーン車はガラガラだ。車掌にグリーン車料金を払い、端っこの席に座る。頼むからもう誰もこっちに来ないでくれと祈りつつ、品川駅に着くころにはグッタリしていた(笑) この仕事をして長いが、忘れられない現場の一つである。
(第7話 おわり)