第5話 「うちの商品は買わなくても結構ですよ」の巻(前編)
お客様の最善を考えたとき、ミライエに何が出来るか。
装置を販売して売上を作ることが必ずしもお客様の利益に繋がらないのであれば、私たちのするべきことは何か。
そういったことを考えるきっかけになった事例がありました。
第5話 「うちの商品は買わなくても結構ですよ」の巻(前編)
とある行政機関より連絡があった。「堆肥化施設から相談を受けているが手に負えないので、ミライエで手伝ってもらえないだろうか」と。
なんでもこの施設で発生している悪臭に苦情が来ており、堆肥の発酵状況にも複数の課題があるとのことだった。そういった案件は得意分野なので「わかりました、ではまずは現場を見に行きましょう」と請け負った。
行政の担当者と同行でその会社を訪れると社長以下10名の方々が会議室に揃っていて、まずはその施設が抱える課題やこれまでの取り組みなどをヒアリング。そのうえでミライエのソリューションの説明をすると活発な質問が飛び交い、それらに対して一つずつ丁寧に説明していった。
一通りの話が終わると先方の社長から、「お宅の技術についてはよく理解できました。導入を検討したいのですが、実はうちの会社、いまお金がないんです。それでも何とかしてもらえそうでしょうか」と尋ねられた。返答に迷ったが、「とにかく日を改めて現場を見てみます。施設のデータ計測と分析もかなり時間がかかる作業なので、現場の方にもご協力をお願いしたいです。話はそれからにしましょう。」と伝え、まずは引き受けることにした。
そして現場の訪問日。
この事業所では、高さ3m以上の堆肥原料が1レーン当たり100m以上の幅に渡って積み上げられ、それが10レーン以上もあるという巨大なものだった。私は防護服で身を固めてまず堆肥の山の上に登り、計測機器でデータを測り始めた。堆肥の上は発酵温度のせいでとても暑く、室温50℃、湿度100%という過酷な環境。おまけに500ppmのアンモニアが吹き出しており、まともに目を開けていられない。作業を開始するとすぐに身体中から汗が吹き出し、強烈な臭いもあいまって頭がクラクラしだす。長時間作業を続けることができないので1回の作業を10分間と決め、1か所計測したら一度施設の外に出て数分休憩しては施設に戻ることにした。
2回目の休憩をとっていた時に施設の工場長が話しかけてきた。ひげを生やした強面の方で、初回のミーティングでも一番たくさん質問し、厳しい意見をぶつけてきた人だ。「島田さん、今日の作業どれくらいやるの?」と尋ねられたので、「20か所計測するので、あと何時間かかるかわからないです」と答えた。
正直、何か小言の一つでも言われるのかなと身構えていたが、「こんな場所で、そんな作業を続けたら死んじゃうよ?せめて水分は摂らないと」と言い、彼の水筒を渡してくれた。「これまだ口つけてないから、飲みながら作業しなよ。俺は重機に乗ってエアコン効いてるから、遠慮しなくていいよ。」と。
「本当はこんな優しい人だったんだ」と感動しながらありがたく水筒を開けると、中にはキンキンに冷えた麦茶が入っていた。一口飲むと火照った体に染み渡るようで、体と頭が少し復活する。作業は本当に大変だったが、この工場長の水筒のおかげで、なんとか計測を終えることができた。
いったん計測は終えたがそこで一つの仮説が浮かび上がり、それを確かめるため堆肥のブロワの設定を変えて、また計測しなおすことにした。細かくブロワの調整をしては堆肥の山に登って計測する。そんなことを繰り返して、作業が終わるころには日が暮れていた。
(第5話 後編へつづく)